途上国に対する経済政策アドバイザーについて
―Dudley Seers (1920-1983)を中心として(Study)
 
まえがき

  2003年度から国際高等研究所において、「開発途上国と日本人長期政策アドバイザー」という名の課題研究が行われている。1970年代はじめからこれまでに、開発途上国の政府や政府関係機関に対して、国際協力機構(JICA)や国際機関から相当数の日本人政策アドバ イザーが派遣され、途上国の政策形成に 参画してきている。数週間だけの現地訪問で終わる視察者とは異なり、彼らは現地に数年間滞在し、相手国の人々と一緒に仕事をしている。いわば Resident Policy Advisers である。文明史的にみて、たとえば日本が近代化初期に受け入れた「お雇い外国人」と対比して、現在の日本人長期政策アドバイザーは一体何をしてきたといえるのであろうか。
 さらに現実問題として、政策協力が日本の経済協力においてもっとも弱い分野であり、その強化が叫ばれている。日本人長期政策アドバイザーは、どのような困難に遭遇し、どのような弱点を自覚したか、そして、それをどのように克服してきたかを集大成し分析することは、今後どのようにしてそうした人材を養成していくかについて示唆するところが大きいであろう。
 このような研究課題をもって、約10名の長期政策アドバイザー経験者が集まり、国際高等研究所において研究会を続けている。「お雇い外国人」と比べてみようというのも、他者と比較することによって、自分たちを知ることができると考えるからである。さらに、研究会が進むにつれ、元アドバイザー仲間で話していると、とかく武勇伝や苦労話になりがちであり、なおのこと比較の座標軸が必 要であると感じるに至った。
 筆者は1976年から93年まで世界銀行(本部 米国ワシントン)に勤務した。 その間、84年から87年にかけて、世銀から出向し、ガーナの大蔵・経済計画大臣のアドバイザーとして同地に滞在した。そして93年世銀を辞して帰国し、大阪大学経済学部で教職についた。その後、2001年からこの3月まで南山大学総合政策学部で教鞭を取った。 
 帰国前、Yale にT.N.Srinivasan 教授を訪ねた。そのとき、筆者のガーナでの仕事などを話し、いずれ途上国に対する政策アドバイザーの研究をするつもりであると話したところ、教授は「ヒデオ いいものがあるよ。」といって見せてくれたのが、Dudley Seers の‘Why Visiting Economists Fail’ という論文である。その論文を読んでみて、Seers が既に1962年にアドバイザーについての問題を論じ尽くしていることに驚いた。
 そこで、昨年2月の研究会で‘Why Visiting Economists Fail’ を紹介した。その研究会で、Seers の論文に書いてあるようなアドバイザーに関する問題点を、Seers がどこで把握したのか、自分自身の経験に基づくものなのか、あるいは、いろいろな人から聞いたものをまとめただけのものなのかということが議論になった。
 3月にワシントンに行く機会があったので、世銀とIMF のJoint Library に行ってみると、 IDS Bulletin のSeers 追悼号が見つかった。それからたどっていくとSeers の論文が次々に見つかった。そして、Seers があちらこちらで問題を提起しつつ(あるいは、起こしつつ?)、遍歴していることが分かった。それ以来、ワシントンに行くたびに、Joint Library に立ち寄った。
 なお、日本でもInter-Library Loanで、かなりの論文が借りられることが分かかった。こうしてできたのが、小論「途上国に対する経済政 策アドバイザーについて―― Dudley Seers (1920 - 1983)を中心として」である。このDudleySeers 論も、政策アドバイザーであった我々自身を考えるための、1 つの比較の座標軸を成すものである。
 「開発途上国と日本人長期政策アドバイザー」を国際高等研究所の課題研究に組み入れてくださった金森順次郎所長、毎回研究会に出席し指導してくださる中川久定副所長、この研究会がここまで形を成すに当たって種々ご尽力くださった草木良子事務局次長に感謝の意を表したい。また、研究会において有益な意見を述べてこられた同僚諸氏にも深く感謝する。
 なお、小論の第1 部と第2 部は、この3月まで筆者が所属していた南山大学の『南山経済研究』第18巻第2号(2003年10月)と第3号(2004年3月)に掲載され、第3部も同誌に掲載される予定であった。しかし、筆者が急遽大阪大学理事に就任するため南山大学を退職することになったところ、『南山経済研究』は学外者の投稿を認めていないので、この際、第1部と第2部も含めて小論の全文を、『高等研報告書』として刊行することになったものである。転載を許可された南山大学経済学会に謝意を表したい。 (2004年5月)

著者
橋 本日出男(はしもとひでお)
学歴
 1960年3月  東京大学経済学部経済学科卒業
 1976年11月 米国イリノイ大学大学院アーバナ・シャンペーン校経済
学専攻終了 
         (P.h.D. in Economics)

職歴 
  1976年       世界銀行経済分析予測局経済専門職員
  1993年       大阪大学経済学部教授
  2001年       南山大学総合政策学部教授
  2004年       大阪大学理事(現在に至る)




196 途上国に対する経済政策
アドバイザーについて
―Dudely Seers (1920-1983)
を中心として

74頁
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