序文
世の中の森羅万象は、実に不思議なことばかりである。私はその不思議な現象の中で、特に物質(もの)の不思議に興味を抱いて研究生活を送ってきた。科学
を学ぶ者の立場として、一番面白い問
題は、“物質の根源とは何か”という疑問であろう。しかしそれは解けていない。あるいは未来永劫に解けない問題かもしれない。
ここでは、もっともらしい表題“もの(物質)とは何か”という大上段に振りかざした課題で、 内容は極めて身近な話題である。特に私が日頃仲
良くしている“もの”の一種“炭素C
”を俎上(そじょう)に載せて、“もの”の面白さを知っていただこうと思って筆を運んできた。また、その中で自分の取り組んだ研究の歴史も述べさせていた
だいた。
「物質の根源とは何か」と共に、3,000 万にならんとする多種多様な物質の種類の中で生きている
私達生物とは何だろうかという問題もまた、これからの科学が避けて通れない問題ではないかと思っている。
本冊子の話題は、国際高等研究所の公開講演会(1997年4月19日)で提供させていただき、また(財)豊田理化学研究所の60周年記念講演会
(2000 年9月20日)で話す機会が与えられた。これらを骨子としてまとめたものである。
この稿の組立てと作成に当たっては、宇宙開発事業団の緒方良子さん、国際高等研究所の田中美
奈子さんの献身的支援を得てはじめて成し得たものである。その力添えに心よりお礼申し上げる。 |