第一章 欧米モデル・多元モデル・近未来モデル
1 日本的なもの
わが国の現代法制は、明治時代にヨーロッパ大陸法を継受して生成した。その後すでに一世紀を越える歳月が経過している。その前半、わが国は急速な近代化を
成し遂げたが軍事大国の途を歩み瓦解した。その後半は連合軍による占領下の虚脱状態から始まり、アメリカの法制の圧倒的な影響のもとで法改革が行われた。
それはそれまでの日本的なものとの断絶を宣言したといえるような根本的な制度改革であった。しかしながら近代的な装いの法制度はその基盤において実は日本
的なものと連動していたのである。注目して良いのはその基盤のうえで経済の高度成長をへて経済大国日本への飛躍が見られたのであり、バブル経済後の混迷状
況もまたその基盤の上で続いていることである。
さて戦後かなり人口に膾炙した日本観は、前近代的で「特殊日本的なもの」の近代化を強調する考え方であった。しかしこの考え方に対して批判的な見方が出
されるようになった。「日本的なもの」にもなにか欧米モデルにないプラスの面もあるという見方である。私自身もこの立場から日本の紛争解決や契約を理解し
ていた。やがて日本は戦後復興期から経済成長期を経て高度成長期を迎える。その頃になるとようやく「日本型モデル」を評価する見方が内外に見られるように
なった。さらにより積極的にはグローバル・スタンダードとして「日本型モデル」を発信しようとする考え方すら見られるようになった。しかしこれは経済超大
国といわれる時期に欧米の日本社会異質論からの挟撃に出会うことになった。その間、経済のグローバリゼーションが急速に進むなかでバブル経済が崩れ経済大
国日本に陰りが見えるようになった。アジア経済に対する期待も足踏み状態となり、現在ではアメリカがグローバル・スタンダードづくりの主役を演じているよ
うに見られる。法の分野でも例外ではない。
かようにわが国の近代法制は激しい歴史的変動とともに歩んできた。それは他の国々ではあまり見られないほどのめまぐるしさである。では日本は世界史の特
異点なのか。たしかにユニークな発展を遂げてきたのであるが、日本の経験は決して日本限りのものとは思えないし、ましてや他の追随を許さないものでもな
い。そのさい注意しなければならないのは、どのような時期であれわが法制は終始欧米の法制と直接間接に繋がりを維持しながら生成し発展してきたという事実
である。
今後はどうなるであろうか。今日の問題状況ではある国の国内問題が同時に国際問題となることが多い。逆もそうである。そしてこれは法律問題でも妥当す
る。その傾向は経済のグローバル化、政治のグローバル化、インターネットというボーダレス社会の出現、情報共同体の生成、遺伝子工学、地球温暖化、いわゆ
る環境ホルモン等の科学技術のインパクト等々によりさらに促進される。現代法制の社会的基盤が揺れ動いているのである。まだその帰趨は見えない。そのなか
に現在とは異質なものが芽を出しているであろう。それは未来の問題であるとともに現代の問題である。われわれにとり重要であるのは、欧米に匹敵するアジア
の経済大国である日本が、よい意味でも悪い意味でも現代と異質といえそうな問題を大量に抱えていることである。法と法学もこのような事実から免れることは
できない。そこには日本的なものにとり従来見られなかった新たな問題が発生しているのである。
このように「日本的なもの」に関して戦後から現在まで時系列上大きなイデオロギー面の変遷があるが、同時にそれぞれが重なり合った現在進行形でわれわれ
に課題を提示している。 |